１－１９．ストーリー・アントールドStory Untold－ナツメグスThe Nutmegs(リロイ・グリフィンLeroy Griffin、マーティ―・ウィルソンMaty Wilson)
５５年４月ヘラルドHeraldのシングルとして発売：R&B２位。５９年１月再発売
もし、ナツメグスに関しビッグ・ヒット１曲――１曲あるとすればそれは昔のドゥーワップ――を考えるのであれば、物語の一部でしかない。運命の定めではあるが、結局ナツメグスのせいで、６０年代半ばになって、事後的にア・カペラが流行した。
ファイブ・サテンズThe Five Satinsを生んだ町の通りで結成されたナツメグス(ナツメグ州と呼ばれるコネチカット州)は、１９５４年にニューヨーク市を訪れた後ヘラルド／エンバー・レコードHerald /Ember Recordsと契約した。
その冬の最初のセッションはある程度の出来で、「ストーリー・アントールドStory Untold」とその後のヒット曲「シップ・オブ・ラブShip Of Love」など３枚のシングルを制作した。
「シップ・オブ・ラブ」は、舞台の演奏の際のちょっと『いかがわしいダンス』(『ザ・ハンチ』という地方ダンスを踊っていただけだった)であるとして(ズバリ、アラン・フリードAlan Freedによる)検閲を受け無ければ、R&Bチャートで１位になっていたかもしれなかった。
結果的にフリードは容赦したのだが、彼らのキャリアは早くして止まってしまった。
さて数年後に飛ぶ。６０年代初期、アービング・スリム・ローズIrving “Slim” Roseは、ニューヨークのタイムズスクエアにある地下鉄のアーケード・ストアーで中古のボーカル・レコードを販売していた。
自分のタイムズスクエア・レーベルから再発行しようとしてマスター・レコードを注意して探していたスリムは、ナツメグスが５０年代後半に練習セッションで録音した一連のデモ盤に出くわした。デモ盤は、一切の楽器を入れずに録音し、たぐいまれな才能がほとばしっているように思えたに違いなく、その歌い方をなまったイタリア語のア・カペラと呼んで、そのまま発売した。ブリティッシュ・インベージョンの期間に、スリムはアカペラのシングルをたくさん売り、ナツメグスはもう一度、マイナーなスターになった。ドゥーワップの歴史におけるもう一つのハッピー・ストーリーだ。