ザ・ドゥーワップ・ボックス Ⅰー9

ここまでで、多くの人は「ビリー、言うまでもないことを言ってるだけだ」と思ってるだろう。覚えていてほしいのは世の中にはたくさんの人がいて、願わくば、そのうちの数百人がこのセットを買ってくれることだが、地下のアーケードの聖地のタイムズ・スクエア・レコーズTimes Square Recordsのケースの中に身を埋めて若いころ無駄に過ごした出来損ないの数百人の人間よりもたくさんいてほしいし、この都会の民衆音楽を理解するときに、この全集が得るところの多い、役に立つものであってほしい。

Times Square Records by Jack Robinson
しかし、グループ・ハーモニーのファン仲間では、特定のグループやレコードが正統な『ドゥーワップ』であるかも知れないとか、ないかも知れないと言うと激しい論争が簡単に巻き起こるかもしれない。もし私が悪党で機嫌が悪かったら、「インペリアル・グーンズImperial Goons」の実績の方が「シュレプ・トーンズSchlep-tones」より過大評価れているとほのめかしただけで、きっと何世代にもわたる事実上の戦争を仕掛けだろう。なぜ、成人男子(中には女子もいる)が時間とエネルギーを費やして膨大な昔のレコードを調査するのだろうか。そのほとんどは、ばかばかしい、読み書きもたいしてできない歌詞で、コンゴウインコがいっぱい入った鳥小屋より調子はずれの歌なのだ。結局、良い音楽ではないと、あなたは言うが、私はそれをたわ言だと言う。
今世紀アメリカの偉大な作曲家/ミュージシャンのデューク・エリントンDuke Ellingtonは、もしそれが好きなら良い、と言った。

Duke Ellington | ディスコグラフィー | Discogs

ドゥーワップが良いのは、過去を思い出し、ハイスクール時代の失恋を夢見心地で考えるノスタルジーな曲のマニアにとってだけでなく、自分たちを感動させてくれるために、尊大すぎもせず、心配ばかりもしていない本物の熱烈な愛好者にとっても良いのだ。過去にも言ったことがあるし、今後も再び言うが、この音楽を評価すると、原始的で素朴派の美術品に似ている。
最高のドゥーワップの中には、とても粗野で教育を受けていないものもあった。いくつか好事例を挙げると、ジュエルズthe Jewelsの「ハーツ・オブ・ストーンHearts Of Stone」、ウィローズthe Willowsの「チャーチ・ベルズ・メイ・リングChurch Bell May Ring」、ダブスthe Dubsの「ドント・アスク・ミーDon’t Ask Me(To Be Lonely)」がある。

その演奏はとても魅惑的なので、そのグループは匹敵する演奏をすることができないほどだ。これらのグループの多くは、あたかも神話の街角で練習し、あまりにも型破りなコード・パターンを考え出したため、スタディオ・ミュージシャンがどうやって彼らの後ろで合わせて演奏したらよいか分からないほどで、例えば、クロウズThe Crowsの「ジーGee」やチャネルズThe Channelsの「ザ・クローザー・ユー・アーThe Closer You Are」だ。

しかし時には、熟練したバック・バンドと『才能あるアマチュア』の息がたまたま合うことがあった。そうすると、「スピードゥーSpeedoo(キャデラックスCadillacs)」、「リトル・ガール・オブ・マインLittle Girl Of Mine(クレフトーンズCleftones)」、または「プリーズ・セイ・ユー・ウォント・ミーPlease Say You Want Me(スクールボーイズSchoolboys)」が生まれる。

時には、アマチュア・バンドがアマチュア・ボーカル・グループのバック演奏をして、うまく行くことがあり、ファイブ・サテンズThe Five Satinsの「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイトIn The Still Of The Night」のように、 40年後に驚くことになったのだが、投票の結果、サブジャンルや時代を超越して、史上最も人気のあったオールディーズに選ばれた。