精神的危機はどこにでもあるようだ。ジェリー・リー・ルイスJerry Lee Lewisがサン・レコードのオーディションのためにメンフィスに向かうという決定は、礼拝の際に聖歌に合わせブギウギを踊ったら聖書神学校を追い出されたことに端を発していたのだが、「ホール・ロッタ・シェイキンWhole Lotta Shakin’」の次の作品をレコーディングするときになっても、まだ非宗教的になることの腹が決まらなかった。
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10月8日、「オール・シュック・アップAll Shook Up」や「冷たくしないでDon’t Be Cruel」をエルビスのために書いた作家であり演奏者でもあるオーティス・ブラックウェルOtis Blackwellが、ルイスのために書きサン・レコードに送られた2曲が用意されていた。

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当然「火の玉ロックGreat Balls of Fire」を選び、ジェリー・リーとバンドが練習をしていると突然ルイスが躊躇した。


幸いにもジャック・クレメントJack Clementは、セッションの間テープをよく回しっぱなしにしていたので、その後の会話を録音してあった。
まず間違いなくアルコールも入っていて、火の玉ロックのイメージが突然ジェリー・リーの想像力を掻き立て、これ以上できないと言い出した。サム・フィリップスがスタディオに入り筋道を立てて話したが、ジェリー・リーは、彼の言い方によると「世俗的な音楽」を録音しているという考えで麻痺し、サムが何を言っても考えを変えることはなかった。

サムの意見はジェリー・リーよりも理路整然としていて分かりやすいというほどではなかったが、声のトーンはパニックにかられた若者の気を静めようとするものだった。テープはジェリー・リーが「おい、俺の中に悪魔が入った。入っていなければ、俺はクリスチャンだ」と言って終わっている。サムが事態をどう方向転換させたかは録音されていないが、ロックンロールにとって幸いなことに、サムは事態を好転させたのだ。ジェリー・リーにとって、それがどれほど幸運だったかは言い表せないほどで、悪魔たちはかなり長い間ジェリー・リーにまとわり付くことになった。