もちろん、ノベルティ・レコードは昔からあったし、ロックンロールは1956年にたくさんノベルティ・ソングを生み出した。ナーバス・ノルバスNervous Norvusの本名はジェイムス・ドレイクJames Drakeで、42歳のトラック運転手であり、フォー・ジョーカーズThe Four Jokersの一員として、輸血という意味の「トランスフュージョンTransfusion」というかなりばかばかしい曲をリリースした。
その夏、パット・ブーンPat Booneのいるドット・レコードDot recordsが、それを取り上げて再レコード化した。
全く冗談のようだが、この男は運転をしていて詩のとおり衝突してしまい、最後には輸血が必要になり、「赤ワインのクラレットを打ってくれ、バレット」と気の利いた言葉を発した。この作品はクローゼットの中で録音したような音で、音響効果が荒っぽく挿入され、多くのラジオ局で放送が禁止されたのだが、それでもトップテン入りが妨げられることはなかった。(続いて「エイプ・コールApe Call」がリリースされたが、ヒットしなかった。)
それから、平凡なブルース歌手、ジェイ・ホーキンスJay Hawkinsが、オーケー・レコードOkeh recordsでレコーディングしたがあまりうまくいかなかった。「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユーI Put a Spell On You」をレコーディング用に与えられたが、ボーカルに問題があったので、酒を飲み始めた。
酔っぱらってふらふらになりながら何とかやり通したが、歌詞の中に奇妙な叫び声やうがいの音が混じっていた。レコード会社は、ロックンロール好きの子たちが気に入るだろうと考えて、彼の名前をスクリーミング・ジェイ・ホーキンスScreamin’ Jay Hawkinsと改名して、放っておいたらヒットした。ホーキンスのキャリアはここから始まり、2007年に亡くなるまで続くのだが、この曲をレコーディングしたことすら覚えていないと言っている。もっとプロらしくて(といっても大したことはなかった)、全く謎だったのがチップスThe Chipsの「ラバー・ビスケットRubber Biscuit」で、ブルックリンのグループのメンバーの一人、チャールズ・ケンロッド・ジャクソンCharles “Kenrod” Jacksonが、不良ティーンエイジャー向けウォーウィック・スクールWarwick School for Delinquent Teenagersというところにいた時に書いた曲で、そのように聞こえる。
基本的に多音節のワンコード唱法で、たまに英語っぽい単語が現れるが、ビスケット、バン、サンドウィッチのことを話しながら、バス・シンガーが時々邪魔をして、このレコードは最終的にこう言って結論付ける。「無料で何が欲しいのかい?天然ゴムのビスケットかい?」ポップ・チャートでもR&Bチャートでもこの訳の分からないレコードがチャート・インすることは無かったが、レコード収集家の心に残り続けた。(チップスThe Chipsのメンバーの一人、サミー・ストレインSammy Strainは、その後リトル・アンソニー&インペリアルズLittle Anthony and The Imperials、さらにその後オージェイズThe O’Jaysのメンバーになった。)