バディはすぐに行く心づもりができていたが、まずはバンドが必要で、ラボック周辺の人脈を考えれば、難しいことではなかったろう。
しかし、バディは自分用に一流の楽器を欲しかった。ボブとのカントリー・ナンバーには、アンプを使ったアコースティック・ギターで十分だったし、安物のエレクトリック・ギターも持っていたが、もっと良い物が欲しかった。そこで、兄のラリーLarryに1,000ドルの借金を頼んだ。
ラリーは自分のビジネスをしていて順調だったが、弟がフェンダー・ストラトキャスター・ギターFender Stratocaster guitarに600ドルを使おうとしていることに、実は驚いた。
それでもラリーは、他の家族と同様に、スターになるというバディの絶対的な確信にかられ、お金を貸した。ホリー一家が新車を買い、中古車をバディに譲った時に、バディが支払いを肩代わりしたのだからバディの借金は増えた。1月後半、バディはバンドの機材を積み込み(ベース・フィドルを昔ながらの場所、つまり自動車のてっぺんに乗せ)、この時にはギターの演奏をしていたサニー・カーティスSonny Curtis、新しいギター演奏者のドン・ゲスDon Guessも一緒に乗り込んで、みんなスターダムを夢見てナッシュビルへの長旅に出かけた。
ドラマーのジェリー・アリソンJerry Allisonは高校に通うため、置いてけぼりにせざるを得なかった。
問題は(あるいはバディのようにポジティブな考え方をするのなら、「調整」という表現になるだが)、町に入ったとたんに始まった。デッカはバディに、自分のバンドを使うのはOKだが、ボーカル・マイクに音漏れする懸念があるので、リズム・ギターで演奏することを嫌がり、代わりにナッシュビルのセッション・マンであるグラディ・マーチンGrady Martinを呼んだと言った。
デッカはロックンロールのドラムも気に入らず、アリソンはまだラボックにいてバディのバンドでは叩けないので、パーカッション演奏のために、ダグ・カークハムDoug Kirkhamをリストアップした。
ラボックのスタッフ全員も、ミュージシャンの組合に加入しなければならなかったが、デッカの人々は彼らが加入していないことにびっくりした。セッションを監督していたのはスタディオのオーナーであるオーエン・ブラッドリーOwen Bradleyで、彼のかまぼこ型のクオンセットを改築したスタディオは伝説的音響特性があり、ブラッドリー小屋としてナッシュビル中に知れ渡っていた。