スリムの店と最初のドゥーワップ・リバイバル
ドン・フィレティDonn Filetiはもともとドゥーワップ・マニアで、1950年代後半から60年代に、ニューヨーク市のタイムズ・スクエアにある、地下鉄アーケードの中の伝説的なスリムの店Slim’s storeに惹きつけられていた。
スリムの店は、この音楽に関心がある者にとって、最初のリバイバルの本拠地となり、50年代初期から中期のボーカル・グループの絶版となった45回転シングル専門で、初の『もっともレアなレコード』リストが編集されたのは、この店の壁の上だった。
現在、ドン・フィレティDonn Filetiとそのパートナーのエディ・グリースEddie Griesは、ニュージャージー州ハッケンザックHackensackで、人気のレリック・レコードRelic recordを経営し、ドゥーワップ時代の数多くの再発行物に情報やライナー・ノーツを寄稿している。彼がスリムの店の初期の頃の思い出にふけったのが、以下の文だ。
ティン・パン・アレーTin Pan Alleyはマンハッタンのブロードウェイと49番街の南東の角にあり、数少ないアメリカの都市にしかない伝説の店の一つだ。中に入るとすぐに、壁いっぱいに懐かしい45回転やLPが、50年代後半から60年代前半にかけてお店が使っていた、緑の在庫用ジャケットに入れてきちんと並んでいるのが見える。
1959年早春にティン・パン・アレーに入り込んだ時、大好きなR&Bボーカル・グループによる、希少品のかび臭い45回転盤専用の目立つように陳列ラックを見てびっくりした。それぞれの枠がオリジナル盤であふれていて、2枚(「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイトIn The Still Of The Nite」と「アース・エンジェルEarth Angel」が頭に浮かんだ)は例外だったが、その時点で再発行盤はほとんどなかった。
ニューヨーク・シティで放送され、かすかに聴いた記憶だけがあるソリテアーズThe Solitaires、キャデラックスThe Cadillacs、スパニエルスThe Spanielsの曲がそこにあった。
どういうわけか使えるお金が5ドルほどあって、1枚1ドルでオールド・タウン・レーベルOld Town labelの45回転盤だけを買うことにした。
最初に1000番から始めて――ソリテアーズThe Solitairesの「ブルー・バレンタインBlue Valentine」(黒いビニールで、残念ながら赤ではなかった)――、ナンバーを上げていった。
横柄な販売員が、私は本当に安く買ったと、太鼓判を押したのだが、数ブロック南にあるタイムズスクエアの地下鉄アーケードにあるお店では、多くの同じレコードを2ドル以上で売っていたからだ。
この年の後半までこの地下鉄の店を自分で見つけるまで、ドゥーワップ45回転盤を欲しがっていたのは自分だけだと考えていた。