ドイツでの軍隊生活は精神分裂状態だった。大佐は父親のバーノン・プレスリーVernon Elvis Presleyとエルビスの祖母に、エルビスが駐在していたバート・ナウハイムの家を買い、エルビスはできるだけそこで過ごした。

エルビスには同棲しているドイツ人のガールフレンドで、エリザベス・ステファニアクElisabeth Stefaniakという19歳のアメリカ人・ハーフがいて、エルビスが秘書として雇ったが、他にも女の子はいた。

チェコの近くに遠征して訓練を受けていた時、エルビスはすごい錠剤を紹介され、これで勢力がみなぎり、作戦行動中も覚醒していた。帰国時に4分の1ガロンの瓶を数本買い、友人に配った。(第2次世界大戦中に、爆撃に際し注意力を高めるためにドイツ軍が開発したもので、アンフェタミンと呼ばれていた。)


この錠剤でエルビスは奇妙な行動をとった。ある時、バーノンとエリザベスは重大な自動車事故に遭って、エルビスのメルセデスは壊れ、エルビスが最初に聞こうと思ったことは、バーノンはエリザベスに言い寄っているのではないかということだった。メンフィス仲間の中には、エルビスが手に負えなくなったので、立ち去ることを決めた者もいた。一方、RCAはエルビスが、何でもいいのだが、何かをドイツで録音するように大佐にさせようとしていて、そうすることでエルビスの名前を出しておきたかった。大佐は作品の希少性が大事だと考えていたようで、キング・クレオールKing Creoleのサウンドトラックを出し、「50,000,000エルビス・ファンズ・キャント・ビー・ウロング 5,000,000 Elvis Fans Can’t Be Wrong」というグレーテスト・ヒットのアルバムもその次に用意していた。

エルビスが兵役を終えるまではそれで間に合わせるしかなかった。エルビスの退役直後に公開される映画、GIブルース GI Bluesの契約が締結されたが、この映画はエルビス周辺のシーンを巧みに脚色し、エルビスのすることはそのシーンをつなぐだけで、映画はハリウッドで完成するが、そのためのロケーション撮影はドイツで始まった。

そして、エルビスは14歳の女の子と出会った。プリシラ・ボーリュウPriscilla Beaulieuは家族と一緒に、テキサス州オースティン郊外にあるバーグストロム空軍基地からビースバーデンWiesbadenに引っ越したが、その前にプリシラとその女友達は地図で調べて、エルビスが駐在しているバート・ナウハイムにとても近いことを発見した。



少女たちはくすくす笑った。しかしその後、ボーリュウが引っ越して来て間もなく、プリシラは兵士家族の施設であるイーグル・クラブEagle Clubで数名の友達とぶらぶらしていると、年配の男性が自分を見つめていることに気づいた。

やがてその男がやって来て、イーグル・クラブのエンターテインメント部長、カリー・グラントCurrie Grantと名乗り、エルビス・プレスリーのファンかどうかを尋ねた。


プリシラがファンだと答えると、グラントは、自分たち夫婦はエルビスをよく訪ねるので、今度ディナーに一緒に行かないかと言った。父親のボーリュウ大尉Paul Beaulieuは訝しがったが、グラント夫妻と会い、部隊長と一緒にグラントのことを調べた後、ディナーの許可を出して、翌日は学校があるので11時までには帰宅しなければならないと言った。

出かけて行って、到着するとエルビスが「おや、これはこれは」と言った。
