ハリケーンズthe Hurricanesはジャページthe Japageやクォリーメンthe Quarrymenより、ランクが一つか2つ上だったが、それはレノンとそのグループにはなかったドラマーやベーシストがいなかったからだけではなかった。
ハリケーンズはカスバCasbahなどの出演場所に頼っていたわけでもなかった。
ジャズや、たまにスキッフル――このころまでに、はるかかなたのリバプールでも消えつつあった――を演奏しても儲からないことが明らかになった後、キャバーンはちょうど売れた。ハリケーンズは全国で出演予約があったが、地元の公演は、まさにこの場所で、大みそかはずっと北のスコットランドのファイフで過ごした。クォリーメンは、大みそかの公演はなかった。
しかしそんな中で、1960年の初め、驚くことが起こった。ストゥ・サトクリフStu Sutcliffeが例年地元のウォーカー・ギャラリーWalker Galleryで行われる協議会に絵画を出展し、協議会後援者で地元実業家のジョン・ムアースJohn Moorsがその絵を気に入り、90ポンドで購入したのだ。
ストゥが小切手を預金するや否や、ジョン・レノンはストゥをグループに入るよう誘った。ストゥはドラムかベースを選ぶことができた――グループはどちらも必要としていた――が、賞金をあまり減らす必要まではなかった。ジョンは執拗だったので、ストゥはその気になった。そうだなあ、ドラムスじゃなく――ストゥが投入したい以上の練習量をグループは要求した――、ベースかな?しかし、それは差し迫った問題ではなかった。というのは、クォリーマンはなぜかカスバでの土曜の夜のレギュラーの仕事がなくなり、ベストさんともめていて、一方で同時にケン・ブラウンKen Brownを首にした。
アラン・ウィリアムスAllan Williamsは、リバプールの町で、この時点では最もビート族であり、妻のベリルBerylや西インド諸島の謎めいた黒人と一緒にジャカランダJacarandaという貸し部屋を経営していたが、この黒人は、みんなから、吸っているたばこにちなんでロード・ウッドバインLoard Woodbineとして知られていた。
ウッドバインはスティールバンドを率いたり、町の周辺で違法なクラブを二つ経営していた。1月末、ウィリアムスとウッドバインは、アムステルダムでの安い長期週末のチラシを見て、魅力的だったので申し込んだ。しかし彼らにはもう一つの計画があり、パッケージ・ツアーの他のメンバーと一緒に戻るのではなく、ドイツに向かった。ある晩、ドイツ人がジャカランダにやってきて、スティールバンドのメンバー数名を説得してドイツに帰国させた時、一緒に行かせのだが、そのメンバーたちが、ハンブルグで楽しんでいるというはがきを送ったのだ。ハンブルグか?調べる価値のあるクラブかな?恐れを知らないリバプールの人間は調べに行った。もしドイツ人の欲しがっているのがリバプール音楽のタレントなら、こっそりクラブに入って、ミュージシャンを盗む必要はない。ウィリアムスは、カス・アンド・ザ・カサノバスCass and the Cassanovasなど、すでにマネージしているタレントを契約させることができる。
ウィリアムスは何人かのタレントのテープを注意深く集めて、荷物に詰め込んだ。二人がハンブルグに着くと驚いた。ホテルのそばでは歓楽街がにぎわっているだけでなく、メインストリートのレーパーバーンには、グロッセ・フライハイトなどの脇道があり、考えられるどんな種類のバーやクラブもあったからだ。ここを見ると、ロンドンのソーホーは抑圧された都市の派手で安っぽい数ブロックに見える。ウィリアムはぶらぶら歩いてカイサーケラーthe Kaiserkellerというクラブを見つけたが、そこにはロックンロールを演奏するライブのバンドがいた。
そこに入って、ビールを頼んで、やはりバンドに驚いたのだが、その理由は、バンドは自分たちが聞いたレコードの音声そっくりに演奏し、あまり感動しない聴衆は、幕間にジュークボックスに合わせてだけ踊っていたからだ。
よし、これならいけるぞとウィリアムスは思い、ボスに会えるかウェイターに尋ねると、すぐにブルーノ・コシュミダーBruno Koschmiderと対面したが、コシュミダーは内反尖足の図体の大きい男で英語を一言も話せなかったので、ウェイターが通訳しなければならなくなった。
ウィリアムスはコシュミダーに、自分は有名なイギリスのエージェントで、今演奏しているバンドよりはるかにすごいバンドを抱えていて、週100ポンド・プラス自分の手数料10ポンドで出せると話した。ほら、とウィリアムスはテープを持ち出し、聞いてくれと言った。コシュミダーはテープをセットしてボタンを押すと…おや、テープから流れてきたのはウィリアムスが入れたのではなかった。謝罪の言葉を言おうとする前に、クラブから喧嘩の音が聞こえ、自分の机の中に手を伸ばし、職杖を持って出てきて乱闘の中に入っていった。静かになると、コシュミダーは事務所に戻って職杖をきれいにすると、机に戻した。ウィリアムスは、完全にへまをこいたとわかっていたので、夜の街に消えた。