これが自分のいる環境だとボビー・ジマーマンBobby Zimmermanだと発見し、彼はすぐに自分の名前はボブ・ディランだと人々に話し、サーカスと一緒にツアーをして成長し、リトル・リチャードのバンドで演奏し(これは嘘で、本当のことを言うと野暮ったいのだが、短期間ボビー・ビーBobby Veeのバンドにいて解雇されたのだった)、ウディ・ガスリーWoody Guthrieを定期的に訪問し、その枕元で歌を演奏すると、年老いたガスリーは明らかに嬉しそうだった。
ディランは2月までにグリニッチ・ビレッジでのクラブ公演を始め、現場の人たちの一部と知り合いになった。バンジョーとフィドルの演奏をするピーター・スタンプフェルPeter Stampfel、しわがれ声の若い男デイブ・バン・ロンクDave van Ronkは、ディキシーランド・ジャズ・バンドの演奏から始めて、すぐにハーレムの牧師から学んだブルースに転向した。
レバーランド・ゲーリー・デイビスthe Reverend Gary Davis 、テキサス(ここではバディ・ホリーBuddy Hollyが書いてくれた曲をもらった)で始めてニューヨークに移ったキャロリン・ヘスターCarolyn Hesterがいた。
この集団にはツイストは重要でなく、追い求める遥かに重要なことがあった。多くの人は核軍縮、人種差別廃止、南部の投票権に関心があり、ピート・シーガ― Pete Seegerなど、40年代後半から50年代前半までのかつてのフォーク・リバイバル時代からのフォークシンガー達によって鼓舞された。
ピートは、教会のホールから大学のカフェテリアまで、迎えてくれるところにはどこでも旅して演奏し、曲は癒しを与え、必要な癒しはたくさんあるということを観客に思い出させた。
しかしながら、それをティーンのアメリカ人がダンスをするレコードからは知ることができない。『ヒット曲作りの役割を担うR&Bのディスク・ジョッキー:シングルを発表し、新譜を提供』という6月の見出し記事は的中した。「新譜」とは再び売れているオールディーズの焼き直しで、昔のように思える全く新しいボーカル・グループのレコードがたくさん出た。傑出したバス・シンガーが歌うカーティス・リーCurtis Leeの「プリティ・リトル・エンジェル・アイズPretty Little Angel Eyes」、ティーンの恋と失恋を歌うユージーン・ピットEugene Pittがリードをとるジャイブ・ファイブthe Jive Fiveのマイ・トゥルー・ラブMy True Story、フィラデルフィアの白人グループのドベルスthe Dovellsが「ブリストル・ストンプBristol Stomp」を演奏した時、ブリストル出身の地元の子たちを「ピストルのように鋭い」と褒め、バリー・マンがむしろ自分のことを歌った「シビれさせたのは誰Who Put the Bomp」は、バップ・シュー・バップ・シュー・バップの中にバップを入れ込んだ作曲者が彼女を自分に恋させることを誓う曲だ。
バリーはもちろん新進気鋭のソングライターだ。
ソロアーティストも、この夏を熱いものにし、有名なジェリー・バトラーJerry Butlerは「アイマ・テリング・ユーI’m A-Telling You」で口火を切り、明らかに事年の代表曲となった、映画「ティファニーで朝食をBreakfast at Tiffany」の「ムーン・リバーMoon River」で成功した。
バトラーのバージョンが唯一というわけではなかったが、彼の滑らかなバリトンは、他を圧倒するようにして認められた。ディオンDionはベルモンツthe Belmontsを離れ、「浮気なスーRunaround Sue(ショッキングな出来事:「スーは他の野郎と出ていっちまった!」)」の話を語り、エルビスは、「リトル・シスターLittle Sister」とB面「ヒズ・レイテスト・フレイムHis Latest Flame」を何とか両面ヒットにして、少なくともトップ・テンに入った。
8月、アトランティックAtlanticは、レイ・チャールズRay Charlesの脱退によって生じた空白を、教会の信徒を率い、金儲けのために葬儀場を経営していながら他のレーベルで2、3曲レコーディングした、フィラデルフィア出身の太った若者が埋めるかも知れないと考えた。
ソロモン・バークSolomon Burkeのアトランティックでのデビュー曲「ジャスト・アウト・オブ・リーチJust Out of Reach(Of My Two Empty Arms)」は、何度もレコーディングされたカントリーソングだが、バークのような演奏ではなく、バークの盤はチャートを駆け上がった。
ジャギー・マレーJuggy Murrayのスー・レーベルSue recordsは、別の曲のアイクとティナ・ターナーIke and Tina Turnerの「イッツ・ゴナ・ワーク・アウト・ファインIt’s Gonna Work Out Fine」がヒットし、アイクは単なるギター演奏ではなく実際に語る役割を担った。